よく「年齢と時代には敵わない」と言います。

確かに、歳を負うごとに、体力が衰えがちなのは認めますが、本当に時代にも敵わないものなのでしょうか?

よしんばそうだとしても、温故知新という言葉もあるように、先人の教えをしっかりと聴き、不易流行の考えのもと、時代と向き合っていくことこそ、正しい時流の乗り方なのではないでしょうか。

本書は、元ヤクルト・阪神・楽天の監督を務めた野村克也氏が、そんな考えを「ボヤキ」つつ書き上げたに違いないと思わせる書であり、野球人に限らず、すべてのリーダーに読んで貰いたい内容です。

書の中では、弱者の戦術、勝つための準備、本当の評価とは何か?等の内容を、野村氏独自の語り口調で、しっかりと根拠を述べ説明されていますが、そのどれをとっても腑に落ちるものであり、頷くことが多いものです。

中でも、冒頭に書かれる「全ては自己を知ることから始まる」という部分は、人生をより良きものにする為に、強く意識をしなくてはならないところだと思います。

なぜなら、自己改革をし続けることが、艶やかな人生を送ることに繋がる訳で、その為には都度、己を分析し続けなければならないからです。

他者と比較し、自分が秀でているところは勿論のこと、劣っている事や備えていない事などを、「知る」ことから改革は始まるものですからね。

なぜ野球を通じて人生訓を学べるのか?

野球は昔から日本人には馴染みのあるスポーツですが、なぜここまで国民に浸透したのでしょうか?

これは、野球が3ストライクでアウトになり、3アウト制で攻守が入れ替わるというルールから、3という数字が好きな日本人に受け入れられた、など、諸説がありますが、私が考える理由は、サッカーやバスケットと違い、一球毎に「間」が存在するから、というもので、これは野村氏と同意見です。

もうひとつ、日本人に好かれている国技とも言うべきスポーツに「相撲」がありますが、これも勝負前に「間」があり、ここで力士が駆け引きを行いますよね?

物見えぬ間、いわゆる「空気」を読むのが好きなのが日本人です。

野球を知ることは、ひいてはこの「間」を読むことであり、魑魅魍魎とも言うべき人間社会においての「駆け引き」を覚えることに繋がるのです。

人生を真に勝つためには、勝負論、そして駆け引きを覚えなければ、到底及ぶものではありません。

弱者の戦術を代表に、本書ではユニフォームを抜いでいた時期に、野村氏があらゆる分野を探求して構築した、生きるための戦術、すなわち人生訓がちりばめられています。

組織とは?チームプレイとは?

野村氏は、「名選手は必ずしも名監督にあらず」、という名言も残していますが、これも偽りのない本音と言えるでしょう。

野球はチームプレイであり、組織力で勝敗が決まると言っても過言ではありません。

すなわち、才能だけで活躍していた選手は、自ずと自分のレベル、そして自分の趣味趣向で戦術を練り、チーム作りをしたがるので、チームとしての力はさほど怖いものでは無いということですね。

これは、野球に限らず、どんな組織(会社)にも言えることでしょう。

例えばどんなに営業力がある社員が居て、バリバリ売上を上げてきたとしても、それをまともに運用出来ない経営陣が居れば、その会社の規模は膨らんでいかないでしょうし、逆に、開発部隊がどんなに素晴らしい商材を創ったとしても、営業がパッとしなければ、これも上手くことが回りません。

必要なのは、自チームは今どんな状態であり、そしてどこに向かっていくのか?これを監督がしっかりと見極め、そして打ち出していくということです。

まさに、会社経営には、経営者のリーダーシップが必要という部分とリンクするところですよね?

そんな視点からも、特にサラリーマンの方に、本書は後の人生においても為になる一冊だと思いますよ。